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「お土産はなくても」

ヤコブさんは、兄の怒りから逃れるため家を離れ旅を始めたわけですが、行く当てもなく荒野をさ迷っていたわけではありませんでした。

旅立つ前に、母から行き先を示されていました。「わたしの子よ。今、わたしの言うことをよく聞き、急いでハランに、わたしの兄ラバンの所へ逃げて行きなさい。」(聖書 創世記27:43 新共同訳)

ヤコブさんは、この母の言葉に従い、伯父にあたるラバンさんの家を目指してハランに向けて旅を続けていたのでした。

ヤコブさん1つの井戸を見つけました。そこにいた人たちに話を聞くと、ハランの人たちであることがわかりました。そして、ヤコブさんはついに伯父のラバンさんの家にたどり着くことができたのでした。

本当なら、親戚の家にお世話になるにあたり、お土産の品をしっかりと揃えて行くのが普通でしたが、事情が事情なだけに、ヤコブさんは身ぐるみ一つで家から逃げて来た身でした。

複雑な事情の故に何も持たずに自分のもとを訪ねて来た甥っ子を、伯父のラバンさんはこのように迎え入れました。

「ラバンは、妹の息子ヤコブの事を聞くと、走って迎えに行き、ヤコブを抱き締め口づけした。それから、ヤコブを自分の家に案内した。ヤコブがラバンに事の次第をすべて話すと、ラバンは彼に言った。「お前は、本当にわたしの骨肉の者だ。」」(聖書 創世記29:13∼14 新共同訳)

身も心も孤独の中、神様の臨在を確信し、目的地を目指して歩き続けたヤコブさんは、親戚の家で新たな生活が始まったのでした。

しかし、ここでハッピーエンドではありませんでした。この伯父の家において、更なる試練がヤコブさんを待ち受けていました。

「与え主への感謝の意」

孤独の旅の途中、夢を通して神様の力強い約束の言葉を聞いたヤコブさんは、眠りから覚めるとこのように言いました。

「まことに主がこの場所におられるのに、わたしは知らなかった。」(聖書 創世記28:16 新共同訳)

自分は今孤独な旅をしていて、たった独りだと思っていたけれども、目には見えない神様がいつも共にいてくださるんだという確信を得たのでした。ヤコブさんにとって本当に心強い約束だったことと思います。

ヤコブさんは目が覚めると、自分が枕した場所に神の家という名前をつけました。

そして、神様から祝福の言葉を受けたヤコブさんは、神様に対してこのような誓願を立てました。

「ヤコブはまた、誓願を立てて言った。『神がわたしと共におられ、わたしが歩むこの旅路を守り、食べ物、着る物を与え、無事に父の家に帰らせてくださり、主がわたしの神となられるなら、わたしが記念碑として立てたこの石を神の家とし、すべて、あなたがわたしに与えられるものの十分の一をささげます。』」(聖書 創世記28:20∼22 新共同訳)

全て必要なものを与えてくださる神様に対して、その与えてくださったものの中から十分の一を神様にささげるという約束でした。これは、ヤコブさんの神様に対する心からの感謝を表すものでした。

私たちは、それぞれの状況や環境によって、持っているものの大小があるかもしれません。しかし、私たちの持っているものは、全て神様が与えてくださったものです。私たちもヤコブさんのように心からの感謝をもって、与え主である神様にその意を表す歩みをしてみませんか?

「わたしが共にいる。決して見捨てない」

兄の怒りを買い、命を狙われるほどの状況になってしまったヤコブさんは、母の助言のもと独り生まれ育った家族のもとを離れて逃亡の旅が始まりました。

長子の特権を強く望んでいたこと、また、それを得るために自分がやってしまったこと。また、自分のしてしまった失敗に対する深い反省の時であったかもしれません。様々なことを思いながらの孤独な旅だったと思います。

日も暮れて来たので、一夜を過ごすための場所を探しました。そして、寝る場所を見つけたヤコブさんは、石を一つ取りそれを枕にして寝始めました。すると、ヤコブさんは夢の中で神様からこのように告げられました。

「見よ、わたしはあなたと共にいる。あなたがどこへ行っても、わたしはあなたを守り、必ずこの土地に連れて帰る。わたしは、あなたに約束したことを果たすまで決して見捨てない。」(聖書 創世記28:15 新共同訳)

ヤコブさんの旅は、家族から離れ、兄から身を隠し、更には、自分の罪に苦しみながらの孤独な旅でした。

そんな中でも、神様はヤコブさんのその苦しみや寂しさをよく知っておられ、「わたしが共にいる」、「決して見捨てない」という強い約束の言葉をかけられたのでした。

神様は、私たちが人生の中でどんな孤独な旅をしている時でも、それをよく知っていてくださいます。そして、神様を求める私たちに、「わたしが共にいる」、「決して見捨てない」と今日も力強く約束の言葉をかけてくださっています。

 

「逃げる」

弟に長子の特権を奪われた兄の悲しみは怒りへと変わり、その怒りは大きく膨れ上がり、そしてその怒りは殺意へと変わっていきました。

血のつながった兄弟であり、更には長らく待ちわびてやっと与えられた大切な2人の息子たちが命を狙い狙われるような関係になってしまったことに両親も心をいためたことと思います。

兄エサウさんの計画を知った母は、長子の特権を奪うために結託していた弟ヤコブさんに対し、逃げるようにと促しました。

そして、父は今から一人寂しい逃亡の旅へと出発する弟ヤコブさんに対して一つの命令を出しました。

その内容は、ヤコブさんがこれから結婚する相手を探すにあたってどのようにするべきであるかということでした。

兄のエサウさんは、避けるべき人たちとの結婚によって両親を悩ませていました。そのため、両親は、長子の特権を受け自分たちの家系を継いでいくことになる弟ヤコブさんには神様の御心にかなった結婚をしてほしいと願ったのでした。

そして、その命令とともに、今度は欺かれてではなく、弟ヤコブを改めて祝福しました。

「どうか、全能の神がお前を祝福して繫栄させ、お前を増やして多くの民の群れとしてくださるように。どうか、アブラハムの祝福がお前とその子孫に及び、神がアブラハムに与えられた土地、お前が寄留しているこの土地を受け継ぐことができるように。」(聖書 創世記28:3∼4 新共同訳)

命を狙われ、逃亡する直前になり、他人のふりをしてではなく、今度こそ正真正銘ヤコブという人として祝福を受けることができたのでした。

そして、ヤコブさんは逃げつつも父の命令に従い結婚相手を見つけるために伯父の所へ向かって行ったのでした。