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「脱走」

ラバンさんのもとを去り、自分の父が住む地へと戻ることを希望していたヤコブさんに、神様はこのように言われました。

「主はヤコブに言われた。『あなたは、あなたの故郷である先祖の土地に帰りなさい。わたしはあなたと共にいる。』」(聖書 創世記31:3 新共同訳)

ラバンさんに故郷へ帰りたいと掛け合い、そのために駆け引きをするなど試行錯誤していたヤコブさんでしたが、ついに脱走計画を企てることとなりました。

自分の生まれ故郷に帰るにあたって、ヤコブさん一人で行くことはできません。ラバンさんのもとで結婚したレアさんとラケルさんや生まれた子どもたちも連れて行かなければなりません。

そこでヤコブさんは、2人の奥さんに自分の思いを伝えました。すると、彼女たちはヤコブさんの思いと、ヤコブさんに対して御心を示された神様の言葉を理解して「どうか今すぐ、神様があなたに告げられたとおりになさってください。」(同 31:16)と応えました。

家族の理解を得た上で、ヤコブさんは2人の奥さん、子どもたち、そしてラバンのもとで得た財産である家畜を連れて出発しました。

勿論、脱走計画ですので、ラバンさんにばれないように計画をたててこっそりとその場を離れて行きました。

しかし、いくら脱走に成功しても、いなくなったことはすぐにばれてしまいます。だとしても、神様が約束してくださった「わたしはあなたと共にいる」という言葉を信じて、伯父の支配のもとから約束の地を目指して逃げだしたのでした。

「祝福の与え主」

ヤコブさんは、伯父のラバンさんのもとで忠実に働きました。勿論、それはラケルさんと結婚するためでもありました。しかし、結婚した後もヤコブさんは忠実に働いていました。その結果、ヤコブさんは神様から大きく祝福されました。

また、ヤコブさんが祝福されることは、伯父のラバンさんにとっても嬉しいことでした。自分のもとで働いている人が祝福されれば、結果的にその祝福に与る事ができ

るからです。

ヤコブさんもそれは認めていました。「わたしが来るまではわずかだった家畜

が、今ではこんなに多くなっています。わたしが来てからは、主があなたを祝福しておられます。」(聖書 創世記30:30 新共同訳)

このことで一つの問題が起こりました。ある

日、ヤコブさんは言いました。

「わたしを独り立ちさせて、生まれ故郷へ帰らせてください。わたしは今まで、妻を得るためにあなたのところで働いてきたのですから、妻子と共に帰らせてください。あなたのために、わたしがどんなに尽くしてきたか、よくご存じのはずです。」(聖書 創世記30:25∼26 新共同訳)

しかし、祝福のもとと思っていたヤコブさんを失うことにためらいを覚えているラバンさんは、当然ヤコブさんを手放すことはしたくありません。そして、ここからヤコブさんとラバンさんの駆け引きが始まっていくことになります。

ヤコブさんの祝福は神様からのものでした。祝福されている人を抱え込むのではなく、祝福の与え主である神様に目を向けることはとても大切なことですね。

「自分の力ではなく」

伯父のラバンさんの策略により、レアさんとラケルさんの2人と結婚することになったヤコブさんでしたが、やはりヤコブさんにとっての本命は妹のラケルさんでした。そのことが一夫多妻の家庭に争いをもたらしました。

姉のレアさんは、子どもが生まれる度に「これで夫は私を愛してくれる」という思いを抱きました。そして、レアさんには4人の男の子が産まれました。

しかし、妹のラケルさんには子どもが与えられませんでした。そのことを切っ掛けに「ラケルは、ヤコブとの間に子供ができないことが分かると、姉をねたむように」(聖書 創世記30:1 新共同訳)なりました。

そして、ヤコブさんに向かってこのように嘆きました。「わたしにもぜひ子供を与えてください。与えてくださらなければ、わたしは死にます」(同30:1)。

愛する人からそんなことを言われたヤコブさんはとても複雑な気持ちだったのではないかと思います。ヤコブさんはラケルさんに言いました。

「わたしが神に代われると言うのか。お前の胎に子供を宿らせないのは神御自身なのだ。」(聖書 創世記30:2 新共同訳)

この後、レアとラケルの姉妹は、どちらが多く子どもを産むかということをステータスとして、自分たちの女奴隷も巻き込んでの争いが勃発しました。結局、ラケルさんには子どもが与えられないままでしたが、最後に神様はラケルさんの願いを聞き入れ、1人の男の子を与えてくださいました。

もしかすると、子どもが与えられず姉との争いを繰り広げていた時には、それは神様が与えてくださるんだということなど忘れてしまっていたかもしれません。しかし、ヤコブさんの言ったように、それは人間の力や人間の都合ではなく、神様が与えてくださるものです。

ラケルさんは、本当に苦しんだ中で神様から与えられた尊い息子を見て、このように言いました。「神がわたしの恥をすすいでくださった」(聖書 創世記30:23 新共同訳)

 

 

「騙されたけれども」

伯父のラバンさんのもとで働きながら暮らすことになったヤコブさんは、ラバンさんに対して一つのお願いをしました。

「下の娘のラケルをくださるなら、わたしは七年間あなたの所で働きます」(聖書 創世記29:18 新共同訳)

これは、出発前に父から言われたことを忠実にはたすことになる大切なお願いでした。

「イサクはヤコブを呼び寄せて祝福して、命じた。『お前はカナンの娘の中から妻を迎えてはいけない。ここをたって、パダン・アラムのべトエルおじいさんの家に行き、そこでラバン伯父さんの娘の中から結婚相手を見つけなさい。』」(聖書 創世記28:1∼2 新共同訳)

さて、ラバンさんは快くその願いを受け入れ、七年間の働きが始まりました。7年

というと、とても長く思えてしまいますが、ヤコブさんにとってはそうでもなかったようです。

「ヤコブはラケルのために七年間働いたが、彼女を愛していたので、それはほんの数日のように思われた。」(聖書 創世記29:20 新共同訳)

約束の期間、しっかりと働いたヤコブさんでしたが、彼を待っていたのは衝撃の結末でした。ラケルさんとの結婚を夢見て一所懸命に働いたのにも関わらず、結婚相手として与えられたのはラケルさんではなく、お姉さんのレアさんでした。

これは労働力となるヤコブさんを手放すことを惜しんだ伯父のラバンさんによって仕組まれたことでした。

結局、ヤコブさんは更に七年間の期間働くことを条件に念願のラケルさんとの結婚を果たしたのでした。

最初の七年は数日のようだったヤコブさんでしたが、後半の七年はどうだったのでしょうか。しかし、どんな状況になったとしても、ヤコブさんのラケルさんに対する愛は変わることがなく、理不尽な条件のもとに置かれたとしても忠実に働いたのでした。